【楽観視は禁物か】ENEOS HD 2021年度Q3決算レビュー

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ENEOS、4─12月営業益が通期計画超過 第4四半期に損失計上見込み(ロイター)

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本日2月10日にENEOS HD(以下、ENEOS)の2021年度第三四半期(Q3)決算が発表されました。後程詳細を確認していきますが、前年同期比では増収増益で(記事にもある通り)既に今年度に見込んでいた営業利益を9カ月(21年4~12月)で超過しました。

しかし上記の記事では触れられていませんが、ENEOSの表向きの利益は原油等の資源価格が非常に大きく影響するため、本業ビジネスで利益を上げているかどうかは原油等の在庫影響を除いた数字で見る必要があります。ENEOS自身も本業ビジネスで稼いでいるかどうかで経営状況を判断しています。

ということでQ3決算資料(掲載サイトはこちら)の中から決算説明資料を中心に確認し、ENEOSの本当のビジネス状況を理解してみましょう。

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Q3好決算は資源開発事業と金属事業が貢献 本業はむしろ不調

まずは決算ハイライトと主なトピックスについてみてみましょう。画像はクリックすると拡大します。

ENEOS FY2021Q3決算ハイライト
ENEOS FY2021Q3決算ハイライト
ENEOS FY2021Q3 決算トピックス
ENEOS FY2021Q3 決算トピックス

左の決算ハイライトで様々な状況が分かります。まず見た目の営業利益は5,301億円で前年同期の約4倍となっていますが、これは直近の資源(原油他)価格の上昇による在庫影響が大きいです。その影響を除いた純粋なビジネスの営業利益は2,733億円と、前年から1,124億円の増益です。重要な点は、ENEOSとしてはこの在庫影響を除いた営業利益通期計画に対する進捗率は88%です。先のロイターの記事にあった「進捗率がQ3で100%超え」はあくまで在庫影響含む営業利益に対するものであり、本業についてはまだ未達ということです。

そして次に目を引くのはセグメント別の利益の増減です。本業ともいえるエネルギー事業は725億円の大減益、一方で石油・天然ガス開発事業と金属事業はそれぞれ650億円、1,281億円の大幅な増益です。

私たち一般市民にとってENEOSといえばまずガソリンスタンドが思いつきます。こういった石油精製を中心としたビジネスがこのエネルギーセグメントに入るのですが、ガソリンはあんまり売れなくなっていますしスライドにもあるように製油所トラブルもあったようで大きな不調に陥っています。

一方の石油・天然ガス開発事業ですが、ENEOSはこれらの資源の採掘権を外国で保有しており、掘った石油や天然ガスが最近の価格高騰によって高く売れたことによる増益です。金属も同様で、ENEOSはチリなどにある銅山の採掘権を保有しており、そこで採掘した銅が高く売れたことで爆益に繋がりました。

こうしてみるとENEOSのビジネスの軸足は従来の本業であった石油精製から資源採掘に徐々に移っている印象です。それこそ数年後にはENEOSは資源の会社、と再認識される日が来るかもしれません。

右のトピックス資料でもそれを裏付けています。ニュースにもなっていましたが、ENEOSは和歌山製油所の生産停止を決定しました。国内のガソリン需要の減退を裏付けるものですね。あと気になったのは「英国の石油・天然ガス開発事業」の売却です。資源開発は儲かっているはずなのになぜ売ってしまうんですかねぇ...説明資料には「ポートフォリオ 戦略の一環として売却を決めた」と記載されていますが明確な理由は分かりません。

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好決算の一方で通期見通しを据え置き 楽観視は禁物か?

更に左のハイライト資料でもう1つ重要な点は通期見通しを据え置いたことです。主な理由は利益を押し上げている資源価格の変動リスクに加え、上述の製油所の廃止・再編に伴うコスト増、英国の開発事業売却による影響、銅鉱山の数量減、固定資産税の増加などを見込んでのことです。

在庫影響を除いた営業利益通期計画に対する進捗率はQ3時点で88%でした。この状況で通期見通しを据え置いたということは、言い換えれば「Q4で残りの12%を進めるのが精一杯かもしれません」というメッセージをENEOSが発したということになります。確かに製油所の廃止は結構コスト掛かるような気がしますし、英国の開発事業の売却影響もあるでしょう(繰り返しますが、儲かってるのになぜ売ってしまうのか疑問ですけど)

そして据え置きの一番の理由とされている資源価格の変動リスクについては、最新(2月10日)の原油先物価格(WTI原油先物)と銅の先物価格について、第四四半期(Q4)となる1月以降の価格推移を見てみましょう。ENEOSが採用している指標(ドバイ原油、銅(LME))とは異なりますが、十分に目安になると思います。

WTI原油先物 価格推移
WTI原油先物 価格推移
銅先物CMX 価格推移
銅先物CMX 価格推移

左の原油価格は1月以降上昇し続けており、2月に90ドルを突破しました。これはQ3と比較してもかなり高い水準です。そして右の銅価格も1月は12月からほぼ横ばいでしたが2月に入ってから上昇しました。

Q4は残り1カ月半あり、その期間中にこれらの資源価格が急落する可能性はもちろんゼロではありませんが、現時点ではむしろQ3よりも価格は高騰しています。↓に資源価格や為替レートに対する損益の感応度を示しますが、資源価格も為替レートもかなり固めの前提を置いており、Q4にこれらの前提条件を下回る可能性はかなり低いと私は思います。

ENEOS FY2021Q3決算 感応度
ENEOS FY2021Q3決算 感応度

注目の期末配当は従来から変更無し 期末決算でのサプライズも期待薄?

ENEOSのQ3決算を見てきました。まとめると以下の通りです。

  • 従来の本業であったエネルギー事業が縮小する一方で、資源開発と金属事業が拡大中。トータルでは前年から増益。
  • 資源価格・為替レートを固めに見て変動リスクを抑えているが、Q4にコスト増となる要因が複数あり通期見通しは据え置き

私はENEOSの株を450株ほど保有しておりますので、ホルダーとして株主還元施策に注目をしていました。今回発表された内容を↓に示します。結論から言えば期末配当の増額は今回発表されず、従来から変更無しです。

ENEOS FY2021Q3 株主還元方針
ENEOS FY2021Q3 株主還元方針

この資料の総還元性向は”在庫影響除き当期利益の50%以上”とされていますが、この「在庫影響除き当期利益」という数字は、決算説明資料でも決算短信でも見つけられませんでした(本記事の最初の方で記載したのは在庫影響除き”営業利益”です)。ということは株主還元がどの程度行われるのかは、ENEOSが内部で持つ数字をベースにするために、投資家が計算することはできません。これは株主の立場で言えば、あまり適切ではないやり方だと思います。

ということで、次の期末決算で期末配当の増配が発表される可能性があるかと聞かれれば、あまり期待できないと考えます。仮に資源価格が上昇し営業利益が上振れしたとしても、営業外のコストが増えたので当期利益は予定通り=増配は無し、というストーリーが容易に作れてしまうからです。

ちなみに先に述べた通期見通しの据え置きの要因とされている複数のコスト増イベントの中には、営業外として扱える項目もあるでしょう。製油所の廃止、再編とか。そのあたりを理由に配当額は最終的に据え置かれるような気がしてなりません。

今回の記事は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。

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