【原油高で爆益とは行かず】ENEOSホールディングス 2022年度第2四半期決算を発表

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【決算速報】ENEOS、今期最終を94%上方修正(株探)

23年3月期第2四半期累計(4-9月)の連結最終利益は前年同期比17.7%増の2487億円に伸びた。併せて、通期の同利益を従来予想の1700億円→3300億円(前期は5371億円)に94.1%上方修正し、減益率が68.3%減→38.6%減に縮小する見通しとなった。

会社側が発表した上期実績と通期計画に基づいて、当社が試算した10-3月期(下期)の連結最終利益は前年同期比75.1%減の812億円に大きく落ち込む計算になる。

直近3ヵ月の実績である7-9月期(2Q)の連結最終利益は前年同期比75.9%減の274億円に大きく落ち込み、売上営業利益率は前年同期の7.0%→1.8%に急悪化した。

https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/20221110-00000105-stkms-stocks

こんにちは、トムです。保有株であるENEOSホールディングス(以下、ENEOS)の2022年度第2四半期決算が発表されました。内容は上記ニュース記事の通り上期(4~9月)累計の利益は大きく伸び、通期の見通しも上方修正されました。しかし記事に記載されている下期利益が大きく落ち込む点と、第2四半期単独の利益が大きく落ち込んだ点がちょっと気になります。

一概に比較はできないのもの、同じく石油の川上から川下全てを事業とするエクソンモービルやシェブロンは今期に大爆益を出しましたが、ENEOSはそうはならなかった印象です。ということで実際はどうなのか、いつものように決算プレゼン資料を確認してみましょう。

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本業のエネルギー事業の大幅赤字を石油・ガス開発と金属がカバー

まずは上期決算全体のスライドから見てみましょう。左がハイライト、右がセグメント別の資料です(画像をクリックすると拡大します)

上期 決算ハイライト
上期 決算ハイライト
上期 決算(セグメント別)
上期 決算(セグメント別)

先に重要な内容を。ENEOSの決算で重要な点は、「在庫影響除き営業利益」で本業の良し悪しを判断できる事です。莫大な原油やエネルギー資源を蓄える必要のあるENEOSでは会計ルール上、決算でそれらの在庫評価を損益に組み込むことが必要ですが、それが利益なのか損なのかは基本的に購入と決算のタイミングだけで決まるものです。従って在庫による損益と本業の損益とを分けて考える必要が出てきます。本記事でも「在庫影響除き営業利益」を中心に見ています。

左の資料で「在庫影響除き営業利益」を見ると、前年同期比で520億円減の1166億円です。ビジネスセグメント別では、本業のエネルギーが何と前年同期比763億円減の490億円の赤字です。吹き出しに記載されていますが第1四半期では利益が出ていたもののこの第2四半期単体で883億円もの赤字を出してしまいました。これはちょっとインパクトが大きいです。

一方、川上のビジネスである石油・天然ガス開発は前年同期比で216億円増の604億円、金属ビジネスは23億円増の810億円と、堅調な伸びを示しています。とにかくエネルギーの落ち込みが大き過ぎる印象がぬぐえません。

何故これほどエネルギーセグメントが落ち込んだのかといえば、資料に記載ありますが油価上昇に伴う燃料コスト増、石油化学品の市況悪化、電気コスト増等が挙げられています。右のセグメント別資料を見ても、素材以外の3つの領域は全て赤字で、特に「石油製品他」のマイナスが前年同期比で472億円減と厳しい状況です。この領域では↓資料の通り、製油所トラブルに見舞われたことも影響しているようです。

製油所トラブル

↑の資料から、この第2四半期に複数の製油所トラブルが発生しトッパー稼働率が前年から下がってしまったようです。まともに原油を処理できない状態ではスムーズなビジネスはできません。なお下期に向けてトラブルは収束に向かっているようですので、下期の挽回に期待しましょう。

トッパー・・・製油所で原油が一番最初に入る装置。油の種類によって蒸気になる温度が違うというせいしつを利用して、原油を加熱してガス、ガソリン、灯油、軽油、重油等の成分に分けます。(引用元:https://www.nishimura-oil.co.jp/sekiyu/yougo/sa/index07.html)

次に堅調な伸びを示した石油・天然ガス開発と金属ですが、ここはやはりレートの影響が大きそうですので確認してみましょう。

原油・銅・為替レート
原油・銅・為替レート

まず原油価格は6月をピークに第2四半期には下降していますがそれでも昨年比では高値圏で推移しています。これが石油開発セグメントの増益に貢献し、一方でエネルギーセグメントのコスト増につながりました。次に銅価格は今年度に入って下落しています。確かに金属セグメントの「資源」は減益で、価格下落の影響を受けています。しかし「資源」以外の領域では全て増益と、資源価格が下がっても利益を出せる体質になっている点はポジティブに受け止められますね。

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通期では前年並みの予想だが、ハードルはかなり高い

続いて通期の見通しについて確認しましょう。左が全体ハイライトで右がセグメント別の資料となります(画像をクリックして拡大します)

通期見通し(全体)
通期見通し(全体)
通期見通し(セグメント別)
通期見通し(セグメント別)

左のハイライト資料から見てみます。「在庫除き営業利益」は前年度並みの3400億円を見込んでいます。そのうちエネルギーは700億円の黒字、石油・天然ガス開発と金属はそれぞれ900億円、1300億円の黒字です。

ここで目を引くのは上期赤字に転落したエネルギーが通期で黒字に転換している点で、これを実現させるには下期だけで1190億円を稼がなければなりません。右のセグメント別資料を見ると、特に上期に369億円もの赤字に転落した「石油製品他」で通期に1090億円の黒字を見込んでいます。となるとこの領域だけで下期に1400億円以上の利益を上げなければなりません。なお「石油化学製品」や「電力」は上期の厳しい状況が続き赤字幅が拡大すると見込まれており、「素材」は上期並みとなっています。

「石油製品他」の上期赤字の要因の1つは先にも見た通り製油所トラブルですので、収束して安定稼働できればある程度の回復は見込めるでしょう。しかしさすがに半年で1400億円の利益を出すというのは難しい気がします。下期になっていきなりガソリンが爆発的に売れるとか、そういう状況にはならないでしょうから。また先日に石油と関連の深い化学銘柄の旭化成の決算レビュー記事を投稿しましたが、化学業界は製品需要の減退等の影響で、下期も厳しい状況が見込まれています。BtoBでもBtoCでも石油の需要が急激に上がる可能性は高くないと考えられ、この通期見通しはかなりチャレンジングな印象を抱かざるを得ません。

石油・天然ガス開発については下期に約300億円の利益が見込まれています。上期は600億円でしたので、5月の見通しから上方修正されたものの、こちらは逆にコンサバな印象を受けます。そして金属は下期に500億円の利益が見込まれています。資源領域の利益が大きく落ち込む一方で事業共通費用(もろもろの事業コストのようです)が大きく削減され、セグメント全体としては前回5月の予想から据え置きです。↓はこれら通期見通しの前提条件と各種レートに対する感応度になります。

通期見通しの前提条件
通期見通しの前提条件
通期見通しの感応度

左の前提条件を見ると、通期の為替レートは1米ドル137円で設定されています。執筆時点(11/12)の為替レートは1米ドル138~139円ですので、現時点ではちょうどいい所と言えそうですが、米国の利上げ一服の可能性が高まっており、今後は円高方向に進む可能性があります。右の感応度を見ると円安が増益方向、円高は減益方向に働きますので、為替レートが理由で減益となる可能性があります。

また通期の原油価格は上期から若干減、金属については銅価格の下落が目を引きます。先のセグメント別の通期見通しで金属の「資源」が大きく利益を落していましたが、ここに原因を求めることができます。となると話はそれますが、金属資源で上期に大きく利益を上げていた商社の下期ビジネスも意外と容易ではないかもしれません(ENEOSの金属ビジネスは銅が中心なので同じとは言えないでしょうが)

以上より、コンサバに見ている部分と攻めている部分が混在している通期見通しですが、下期にはENEOSが手掛ける資源価格の下落が見込まれており、全体としては厳しい状況にあると言えるでしょう。通期見通しの達成には予断を許しません。

株価はほぼ無反応 投資家も様子見状態か

最後に執筆時点の株価を見てみると、490.6円です。

ENEOS 株価(2022/11/12時点)
ENEOS 株価(2022/11/12時点)

決算が発表されたのは11月10日の13時で、その時瞬間的に上昇しましたがその後に下落に転じ、11日はほとんど価格に動きが無い状態です。今回の決算に対し市場の反応は鈍かったと言えるでしょう。一見すると大きな増益ですが本業はあまり芳しくなくトータルすればトントンか、と捉えられたように思われます。

繰り返しになりますが下期のビジネス環境は容易でなく、今回発表された通期見通しの達成も簡単ではありません。ホルダーとして第3四半期以降の決算もしっかり見ていきます。

今回の記事は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。

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