【コンテナ需要急減も予想通りの着地】商船三井 2023年3月期第3四半期決算を発表

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2023年1月31日12時半に海運大手の商船三井が第3四半期決算(3Q)を発表しました。

商船三井、今期経常を2%下方修正、配当は10円増額(株探)

23年3月期第3四半期累計(4-12月)の連結経常利益は前年同期比51.6%増の7392億円に拡大した。しかしながら、併せて通期の同利益を従来予想の8000億円→7850億円(前期は7217億円)に1.9%下方修正し、増益率が10.8%増→8.8%増に縮小する見通しとなった。ただ、通期の連結最終利益は従来予想の7900億円→8000億円(前期は7088億円)に1.3%上方修正し、増益率が11.5%増→12.9%増に拡大し、従来の2期連続での過去最高益予想をさらに上乗せした。

会社側が発表した下方修正後の通期計画に基づいて、当社が試算した10-3月期(下期)の連結経常利益も従来予想の2002億円→1852億円(前年同期は4499億円)に7.5%減額し、減益率が55.5%減→58.8%減に拡大する計算になる。

株探

3Qまでの累計の経常利益は前年同期比で増収増益となった一方、通期の経常利益は従来予想からわずかに下方修正され、通期の最終利益はわずかに上方修正というちょっとややこしい感じの内容です(一応、過去最高益達成の予想は変わりません)。ただし修正幅は小さいので、全体としてはほぼ前回の予想通りに進捗していると評価できるでしょう。

以降では今回発表された決算説明資料を確認してきます。

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上半期の「貯金」でQ3累計は増益も、下期の落ち込みが顕著

↓の画像は左が連結決算概要、右がセグメント別の決算資料となります。(画像をクリックすると拡大します)

商船三井 FY2022Q3 連結決算概要
商船三井 FY2022Q3 連結決算概要
商船三井 FY2022Q3 連結決算セグメント別
商船三井 FY2022Q3 連結決算セグメント別

左の決算概要を見ると先の記事にもあった通りQ3までの累計損益は前年から大きく増益となっています。しかし四半期毎の状況を見ると、1Q、2Qはそれぞれ3000億円程度の利益を挙げられていましたが、3Qは大きく減少して1300億円程度に留まったことがわかります。また前年のQ3は2000億円程度の利益を挙げていましたので前年同期比で利益が6割に落ち込みました。累計損益の増益の要因は、上期の貯金が活きたからですね。なおこの資料には為替の情報も記載されており、3Qの平均為替レートは1米ドル144円とかなりの円安水準で推移していました。海運業は円安で増益方向に働くのですがそれにも関わらず大きな減益となったということで、明らかに上期までの好業績のサイクルが終焉したと言わざるを得ません。

右のセグメント別資料を見ると、主力ビジネスのドライバルク事業、エネルギー事業は2Qとほぼ同水準の利益を挙げられましたが、近年爆益を挙げていた製品輸送事業の利益が2879億円から1011億円と約3割に減少となっています。その製品輸送事業の中核を占めるのがコンテナ船事業ですが、これが2Qの2603億円から3Qは715億円と大きく落ち込んだのが製品輸送事業の利益減の要因です。このコンテナ船事業については決算要点では以下のように記載されています。

港湾混雑の緩和、世界経済の減速を受け、8月半ば以降輸送需要が減少、短期運賃市況が下落、3Q
(10~12月)は前年同期比減益となるも、9か月累計では前年比高値で成約した期間契約が利益貢献し、増益。

ご存じの方も多いと思いますが商船三井のコンテナ船事業は日本郵船、川崎汽船との3社の合弁会社であるONE(オーシャン・ネットワーク・エクスプレス)社が行っており、持ち株比率(郵船38%、商船三井と川崎汽船が31%ずつ)で3社が利益を分け合っています。そのONE社の決算資料も今回同時に発表されていますので確認してみましょう。

ONE社 FY2022Q3決算概要
ONE社 FY2022Q3決算概要

1Q、2Qの税引き後利益はそれぞれの期で5500億円挙げられていましたが、3Q実績で約半分の2700億円に減少しています。こちらの資料からも3Qにコンテナ船事業が急激に厳しくなったことが伺えますね。

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4Qは全セグメントが厳しい見込み 通期見込み達成は予断許さず

これまで見てきた通り3Qで急激に厳しさを増した事業環境が、次の4Qにどのように見込まれているかです。決算資料の内容を確認していきましょう。↓の左スライドは業績予想概要、右スライドはセグメント別予想となります。画像をクリックすると拡大します。

商船三井 FY2022通期業績予想(3Q時点)
商船三井 FY2022通期業績予想(3Q時点)
商船三井 FY2022通期業績予想 セグメント別(3Q時点)
商船三井 FY2022通期業績予想 セグメント別(3Q時点)

左の概要資料から、4Qの営業利益と経常利益は厳しかった3Qの3割程度に留まると予想されています。3Qでも大きく利益が落ち込みましたがそこから更にドドーンと落ち込んでしまうということです。これはちょっとショッキングな内容です。ちなみに4Qの想定為替レートは1米ドル131円に設定されています。最近130円を割り込むことが珍しくなくなっていますので円高が進めば更に減益の可能性もあります。

なお先の記事にも記載のあった通り、通期の経常利益は従来予想からわずかに下方修正され7850億円、通期の最終利益はわずかに上方修正され8000億円となっています。これだけ4Qの事業環境が厳しくなる中で損益予想を大きく変更せず、わずかではありますが最終利益を積み増した点をポジティブに評価したいと思います。

右のセグメント別資料を見ると、3Qでは堅実に利益を挙げていたドライバルク事業とエネルギー事業の利益が50%~70%程度減少すると見込まれています。そして製品輸送事業の利益も3Qから約70%減少と、全ての事業セグメントで更に厳しさが増すことが見込まれています。今回の決算資料に記載されていないのですが、3Qに明らかに落ち込んだコンテナ船だけでなくドライバルクやエネルギーも落ち込む予想である点から私は世界的な物流需要の落ち込み、つまりは景気の後退を商船三井が想定していると感じます。

4Qの見込みについては、コンテナ船事業のONE社の資料にも記載がありますので見てみましょう。

ONE社 FY2022通期見通し(3Q時点)
ONE社 FY2022通期見通し(3Q時点)

商船三井の見通しとほぼ同じく、4Qの利益は3Qの3分の1になっていますね。市況悪化と運賃の低迷、そして4Qは海運輸送の重要拠点である中国が旧正月を含むという点が、利益が大きく減少する主要因になっているようです。

なおこれだけ4Qの見通しが厳しい中で、配当金については先の株探の記事にも記載があった通り従来発表されていた通期550円(中間300円、期末250円)から10円増額の560円に増配されました。ただしこれまで見てきた4Qの状況を踏まえれば来年度(2024年3月期)の減配がほぼ確実視される状況ですので、心の底からハッピーかと言えばそうでもないのが正直な感想です。

商船三井 FY2022配当の状況(Q3時点)
商船三井 FY2022配当の状況(Q3時点)

市場の反応はポジティブ 4Qの損益が本来の経営力を示すか

今回の発表を受けての株式市場の反応ですが、↓に示した本日の株価推移の通り決算発表直後の後場開けで上昇し、そこから落ち込んだものの引けで再び値を戻しました。結局前日終値から1.26%上昇し3,205円で取引を終えています。市場は今回の決算をポジティブに受け止めたようですね。これは最終利益の上方修正(わずかではありますが)を好感しての反応だと思われます。

商船三井 株価推移 (2023/1/31)
商船三井 株価推移 (2023/1/31)

まぁ先週末に大きく下落しましたので、ある程度値を戻しただけとも言えますけどね(苦笑)

以上、商船三井の2023年3月期第3四半期決算を見てきました。コロナ禍が引き起こしたサプライチェーンの混乱と物流需要の急騰により、海運大手は2021年度、そして2022年度に(ある意味で何もしなくても)爆発的な利益を挙げる事ができました。しかしその混乱と需要が収束し為替レートも歴史的円安から円高方向に進んでいます。本記事で4Qの事業環境は厳しいと表現してきましたが、それはあくまで3Qまでの異常な状態と比較してのことで、海運の長い歴史から見れば4Qの状況が「平常運転」でしょう。その平常時に戻ることが明確になったことが今回の決算資料から読み取ることができました。

ここから重要になるのは企業が持つ経営力になります。平常運転と言いましたが世界的に景気悪化が懸念される状況ですから、平常どころが強い逆風が吹くかもしれません。であればなおさら経営力次第で損益が大きく変わってくるでしょう。その意味で4Q単体の損益が非常に重要になってくると思います。2022年度通期の最高益達成はほぼ見えました。これ以降は大きなプラス要因が無い中で、経営力でどれだけの利益が挙げられるかが、海運企業を評価する大きなポイントとなりそうです。

今回の記事は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。

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